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雀百まで踊り忘れず?
 私は大学を出ての初職は広告代理店の営業マン(当時は連絡マンと言ってい
た)であった。広告代理店勤務といっても、華やかさには無縁でどちらかとい
うと印刷会社に勤務しているという感じだった。それは、担当したクライアン
トが総合商社系や独立系の大手不動産ディベロッパーであったり、大手建設会
社系の不動産仲介業であったことも関係している。
 とにかく、印刷物、特に折り込みチラシは作りに作ったという感じで、1日
に10本の原稿入稿、色校は当たり前。月曜日の午前中に発注を受けた4色×
1色のチラシ10万枚を3日後の木曜日に納品は日常茶飯事。不動産仲介業の
10店舗から木曜日に発注受けて、計500物件を整理、レイアウト、コピー
付けしながら、同時に図面のトレース発注をし、金曜日の夕方には印刷入稿な
ど朝飯前。

 いやはや当時はPCで版下製作する時代ではなく写植で打っていた時代だか
ら、我ながらよく納期を間に合わせていたと今更ながら驚く。お陰で、2−3
文字の修正なら写植の切り貼りでしのぎ、2色くらいならデザイナーに頼まな
くても色指定できるという、今ではほとんど役に立たないスキルも身に付いた。
 役に立たないスキルも身に付いたが、昔取った杵柄ではないが、チラシの知
識や印刷の知識、進め方などは忘れないものである。というのも、先日、某会
社からの依頼でチラシ広告の研修を担当させてもらった。特約店や代理店が作
成するチラシへのアドバイス能力を高めるというのが目的で、この手の研修が
成り立ってしまうこと事態、すごいことだが、昔の知識が存分に役立ったので
ある。

 研修の前に、チラシの知識がどのくらい残っているか、家に入るチラシを久
々に「作る側」として研究してみた。手で紙質や紙の重さを探る。当然だが、
コンセプトや訴求ポイントの仮説を設定する。その会社の競合他社との訴求点
の違いを整理する…など、当時やっていたことがスイスイと出てくることに我
ながら驚く。地元の出入りの印刷会社の営業マンに紙の種類や重さを確認して
もらうと15種類中12種類が正解だったのには、指の感触は忘れていないの
に、嬉しいのか哀しいのか、複雑な心境であった。

 ところで、今回の研修対象者は幸せだとつくづく感じた。広告代理店の営業
マンですら、当時、教えてもらえず仕事を通じて身体で覚えていくことを研修
で教えてもらえる。
 ちなみに私は、広告代理店時代、マーケティングのマの字も教えてもらえな
かった。皆、企画や調査のプランナーが書く企画書を読み込んで覚えたものだ
った。紺屋の白袴とでもいうか、専門知識を持たなければならないはずの人間
が教わっていないことの方が多いのかもしれない。そういえば、マーチャンダ
イジングなんていう言葉、広告代理店を辞めてから知った言葉だもんなあ。情
けない。

 というわけで、雀百まで踊り忘れずで、少々用語の使い方に不適切はあるが、
若いときの苦労は買ってでもしろ、が実際に活きた研修であった。

             (2004/10/18 人材開発メールニュース第306号掲載)


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